離職
。

蝋梅/
先日、ついに介護施設を辞めた。
利用者さんからのハラスメントに耐えられなくなったからだ。
身体的暴力、(力一杯叩く、突き飛ばすなど)精神的暴力(大声で怒鳴り続けるなど)
が行くたびにある。
定規を振り回されて怖かったこともある。
手加減なくそうするであろう人の前に、至近距離で付いていろ、と言われる。
決定的だったのは、施設側の「見て見ぬ振り」の態度だった。
皆んな同じ目に遭っているのだから我慢しろ、という雰囲気が常で、ハラスメントに遭っているとき、助けてもらえることはなかった。
能面の般若の貌が迫りくる 介護終わりて目を閉じるとき
このひとの時空は何処にありしかや 「オトハンに会う」寒空に出て
安定剤ジャーと花瓶に空けらて「どうぞ」と空のコップ返りき
新聞を着物と思い畳み折る 確かな手捌き襦袢現る
異界から汲み入る力と確信す 留処のつかぬ老女の激烈
暴力を暴力と認めたときに崩壊す あやうき砦 小規模多機能
大雪の前に繁盛しただろう 姥捨山に踏み分けし跡
オムツにも名前あること今わたしAさんのオムツ探しているの
日本語のできないファビが覚えたる 最初のコトバ「ショウドクシマス」
経営の厳しさもろに実感す 「ポカリは水で二倍に薄めて」
傾いた施設に放りっぱなしの(ご家族)を 加害者と思いし日の浅き頃
介護の果て 母を殺めし女(50)今朝の紙面を屈みて見つむ
云うなれば 既にどちらも被害者で 積雪にうねる竹林
風呂入れの資格を取れば報酬が上がるんだよね 12円だけ
12円貰うために腰痛を引き受けるひとあると思えず
しかし今日 ジャージ濡らして風呂介助しているひとがガラスに写る
人員が足りぬを解りていじめする 哀れみ以上の怒りは湧かず
閉鎖的になれば私も虐待す そういう種が何処かでざらつく
休憩所足を伸ばして寝る所 誰も一とき利用者より老けて
腰の辺に 垂れたる乳房を肌着だと 違えてぎゅうと引きしことあり
介助した後のトイレでバナナ食う パートは肩身の狭き立場ぞ
宗教的要素なのかもトイレまで貼られし標語は「感謝」と「忍耐」
とりあえず標語(ドグマ)に疲れて目を閉づる横手の河に水鳥の歩く
もうええぞ もうええぞ平常(つね) 神さんのお迎え待ってるような眼ざし
人間の本心なんてわからない 車椅子は後退りもする
「きょう腐った歯ァがとれたの痛くなかったの」一〇二年の歯ァ
精薄のひとが描きたる顔やさし 今日のなぐさめポケットに入れる
ぽっかりと椅子だけ残る空間に 生けたナンテン西日が当たる
一人だけ帰る家なきSさんと 向かい合ってる大晦日の夜


蝋梅/
先日、ついに介護施設を辞めた。
利用者さんからのハラスメントに耐えられなくなったからだ。
身体的暴力、(力一杯叩く、突き飛ばすなど)精神的暴力(大声で怒鳴り続けるなど)
が行くたびにある。
定規を振り回されて怖かったこともある。
手加減なくそうするであろう人の前に、至近距離で付いていろ、と言われる。
決定的だったのは、施設側の「見て見ぬ振り」の態度だった。
皆んな同じ目に遭っているのだから我慢しろ、という雰囲気が常で、ハラスメントに遭っているとき、助けてもらえることはなかった。
能面の般若の貌が迫りくる 介護終わりて目を閉じるとき
このひとの時空は何処にありしかや 「オトハンに会う」寒空に出て
安定剤ジャーと花瓶に空けらて「どうぞ」と空のコップ返りき
新聞を着物と思い畳み折る 確かな手捌き襦袢現る
異界から汲み入る力と確信す 留処のつかぬ老女の激烈
暴力を暴力と認めたときに崩壊す あやうき砦 小規模多機能
大雪の前に繁盛しただろう 姥捨山に踏み分けし跡
オムツにも名前あること今わたしAさんのオムツ探しているの
日本語のできないファビが覚えたる 最初のコトバ「ショウドクシマス」
経営の厳しさもろに実感す 「ポカリは水で二倍に薄めて」
傾いた施設に放りっぱなしの(ご家族)を 加害者と思いし日の浅き頃
介護の果て 母を殺めし女(50)今朝の紙面を屈みて見つむ
云うなれば 既にどちらも被害者で 積雪にうねる竹林
風呂入れの資格を取れば報酬が上がるんだよね 12円だけ
12円貰うために腰痛を引き受けるひとあると思えず
しかし今日 ジャージ濡らして風呂介助しているひとがガラスに写る
人員が足りぬを解りていじめする 哀れみ以上の怒りは湧かず
閉鎖的になれば私も虐待す そういう種が何処かでざらつく
休憩所足を伸ばして寝る所 誰も一とき利用者より老けて
腰の辺に 垂れたる乳房を肌着だと 違えてぎゅうと引きしことあり
介助した後のトイレでバナナ食う パートは肩身の狭き立場ぞ
宗教的要素なのかもトイレまで貼られし標語は「感謝」と「忍耐」
とりあえず標語(ドグマ)に疲れて目を閉づる横手の河に水鳥の歩く
もうええぞ もうええぞ平常(つね) 神さんのお迎え待ってるような眼ざし
人間の本心なんてわからない 車椅子は後退りもする
「きょう腐った歯ァがとれたの痛くなかったの」一〇二年の歯ァ
精薄のひとが描きたる顔やさし 今日のなぐさめポケットに入れる
ぽっかりと椅子だけ残る空間に 生けたナンテン西日が当たる
一人だけ帰る家なきSさんと 向かい合ってる大晦日の夜
